剛体の回転角の話

編入試験の勉強をしている学生さんからたまに聞かれる質問なのでまとめておきます。

  • 剛体の回転角 \theta の定義(どこからどこまでの角度を \theta とすべきなのか)が分からん
  • 曲面上をすべらずに転がる円板や球の問題を解いたら答えが合わない。どうもすべらないことからくる条件が違うようだが分からない。直線上をすべらずに転がる問題は解けてるのに。なんぞ?
  • 「すべっていなければ接地点は瞬間回転中心になるから速度ゼロ」ってどういうこと……

といったところで手が止まった人向け。

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まず剛体の動き方の確認です。質点とちがって剛体には大きさがあるので、重心の移動だけではなく重心のまわりの回転(自転)が組み合わさった動きをしますね。

例えば、端に1か所★印のついている円板を投げるとします。

図1:重心のまわりで回転していない(=重心の並進運動だけの)剛体の動き

★印が真下にある状態から円板をいっさい回転させずに投げることができたら、図1のような状況になりますね。★印はつねに真下にあります。

図2:重心のまわりで回転しつつ動く剛体

同じ円板を、回転をつけながら投げると図2のようになります。円板はその重心を速度 v で移動させながら、重心のまわりを角速度 \omega で自転しています。★印は回転した角度の分だけ移動します。

図3:重心まわりの(自転の)回転角の定義

剛体の重心まわりの(=自転の)角速度 \omega は、剛体が重心まわりにどれだけまわったかを示す角度 \theta を微分することで得られます。これを重心のまわりの回転角と呼びます。今の場合だったら、「★印は真下からどれだけ回ったか」を測ればよいので、鉛直線を基準軸として図3のように \theta を定義すれば、

(1)   \begin{equation*} \omega = \frac{d\theta}{dt} \end{equation*}


が成り立ちます。また、この円板にはたらく重心のまわりのトルク(力のモーメント)を N、重心のまわりの慣性モーメントを I として、重心のまわりの回転の運動方程式

(2)   \begin{equation*} I\frac{d\omega}{dt} = I\frac{d^2\theta}{dt^2} =N\end{equation*}


が成り立ちます。

以上のことは、空中ではなく曲面上を動いているときも全く同じです。剛体の重心まわりの(=自転の)回転角 \theta「空間に固定された軸から何度回ったか」で定義しないといけません。

図4:曲面上を転がる円板

たとえば大きな球や円板の上をさっきの円板が転がっているとしましょう。このときの重心まわりの回転角 \theta図4のように定義されます。このように定義すると、(1)式や(2)式もそのままの形で成立します。

気を付けたいのは、図4のような状況の問題を考える時、重心まわりの回転角
\theta を「大きな円との接地点から★印までの角度( 図4で言うと \theta-\phi のこと)」と定義してしまいがちなことです。そのように定義してしまうと、回転の運動方程式(2)は成り立ちません。大きな円があるだけで錯覚しやすいですが、小円板だけ見ると図4図3と同じ状況なのです。

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さて、次にここからは「すべらない」話をしましょう。図4のような問題で、「円盤がすべらずに転がる」とか「大きな球は完全に粗い(=摩擦力最強=上に載っている物体はすべらない)」とか書いてある場合のことを考えます。

図5:すべらずに転がる場合、大きいやつと小さいやつが互いに接した青い部分の距離は一致するはず。

もし乗っている円板が滑らずにころがっている場合、上の円板が転がりながら下の円と互いに接した部分(図5中に青い太線で示した部分)の距離は完全に一致するはずです。上滑りなどはしていない状態です。これが「すべらない」の一番原始的な定義です。式にすると、大きな円の半径を R、乗っている小さな円の半径を r として

(3)    \begin{equation*}  R\phi = r \left( \theta-\phi \right) \end{equation*}


ということになります。この式を後に続く話のために少し変形しておくと次の形になります。

(4)    \begin{equation*} \left( R+r \right) \phi = r  \theta  \end{equation*}


図6:回転角と速度

(4)式は重心の速度 v と自転の角速度 \omega で書き直すことができます。 重心が進んだ距離は図6より \left( R+r \right) \phi とかけることから、これを微分して

(5)    \begin{equation*}   v = \left( R+r \right) \frac{d\phi}{dt}   \end{equation*}


と表すことができます。したがって、(4)式の両辺を微分し、(5)式と(1)式を代入すると

(6)     \begin{equation*} v = r  \omega  \end{equation*}


を得ます。よく見る式やね。

ちなみにここまでの式を使うと、「すべらない」とは「接地点が瞬間回転中心になるので速度がゼロ」とか言ってる初めて読んだ時には意味不明な話(分からなかったのが私だけとは信じたくない)も理解できます。

図6における接地点Aの速度 v_A を求めてみましょう。重心は速度 v で動いていて、さらに角速度 \omega で自転しています。自転による速度を v' とすると、図6に示したように v とは逆 向きの円の接線方向を向いているので、接地点Aの速度 v_A は重心の運動と自転による速度を合わせて次のようになります。

(7)     \begin{equation*} v_A = v-v' \end{equation*}


この式に、(6)式と、角速度 \omega で半径 r の自転をしていることから成り立つ  v'=r\omega の関係を代入すると、

(8)     \begin{equation*} v_A =  r  \omega - r\omega =0 \end{equation*}


となり、接地点の速度はつねにゼロであることが分かります。したがって、円板はこの瞬間、接地点を中心にした大きな円運動をしていると見ることができるため、「接地点は瞬間回転中心」という表現をすることがあるのです。これが「すべらない」のカッコイイ表現方法です。

2 thoughts on “剛体の回転角の話

  1. 独学で大学力学を勉強している者です。
    「滑っていなければ接地点は瞬間回転中心になるから速度ゼロ?」を調べていて、このサイトにヒットしました。
    大変参考になり、いくら感謝しても感謝しきれません。
    ありがとうございました。m(_ _)m

    • いえいえ、リアクション頂けて嬉しいです。
      独学でとはすごいですね。
      メッセージありがとうございます!

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